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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)993号 判決 1960年3月17日

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人山中大吉の上告理由について。

原審の判示するところによれば、本件当事者間の運送契約は本渡市(当時本渡町)所在の農進社を荷受人とするものであり、右農進社はその頃有限会社として設立準備中の会社であつたとはいえ、設立事務所を同市本渡一〇〇一番地の二、八田医院の屋敷内に置いていたというのであるから、本件運送契約の趣旨とするところは、本件物品を右農進社設立事務所に運送することを内容とするものであつたと解するのが相当である。

しかるに原判決の判示によれば被上告会社の使用人松下義守は、本件物品を同市本渡馬場一三八番地の二、益田勝義方園田文男の許に配達し、同人に引渡した結果その滅失を招いたというのであるから、前記契約の趣旨に鑑み、被上告会社は債務の本旨に従つた履行をしなかつたものといわなければならない。

ところで原審は、(一)右農進社の設立事務所には看板その他これを表示すべき何物もなく、上告会社は荷受人として単に「天草郡本渡町農進社」と表示したにとどまり、(二)前記園田は当時農進社の設立準備委員の一人であり、(三)右園田が前記松下に「農進社園田文男」名義の上告会社に対する本件荷物と同様同量の商品の注文書写(園田が作成した虚偽の注文書写)を示して園田方への配達を依頼したので、松下は該指図に従つて同人に引渡したものであるとの事実を挙げて、被上告会社に右債務不履行につき責むべき過失の存しなかつた趣旨を判示しているが、一方原審認定によれば、上告会社は、本件に遡る一ケ月余前にも荷受人として本件と同様の表示をして被上告会社に物品運送を委託したところ、被上告会社本渡営業所では、荷受人の所在が不明であるとして該物品を一時保管しておき、農進社の設立準備委員吉田為八の連絡を得て前記松下において吉田の指図に従い前記設立事務所に配達したことがあつたというのであるから、本件物品の配達に当つた松下としては、前記本件荷受人の表示によつても荷送先が何処であるかを了知し得たものというを得べく、その上、運送人には荷受人を確知し得ない場合に運送品を供託しもしくは所定の手続を経て競売する権能をも附与されているものである(商法五八五条)ことを考え合わせれば、本件の場合に単に上記(一)乃至(三)の事実の存在することのみによつては、未だ被上告会社に前記債務不履行についての過失が存しないものと解することはできない。

してみれば右(一)乃至(三)の事実を判示したのみで、たやすく被上告会社に本件債務不履行についての過失は存しないと断じた原判決は、商法五七七条の解釈を誤まつたか、審理不尽、理由不備の違法あるに帰し、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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